フローラ・カメオ（オリジナルボックス付） 銀座アンティーク・アイ

王室御用達宝石商のオリジナルボックスに入ったヴィクトリアン・カメオの逸品。

• 商品番号 /C4021Y
• 年 代 / 1860年頃
• 国 名 / イタリア＆イギリス
• サ イ ズ / 縦：75.2mm 横：66.9mm 厚さ：18.4mm(留め具を除き） 
• 素 材 /コロニアル貝、金

19世紀には実在の女性をギリシャ神話に登場する女神の姿を通してカメオにすることが流行しました。肖像カメオの一種ですが、そこに女神が重なることにより装飾品として身に着け易くなっています。

このカメオは現在ヨーロッパのマーケットで見られるヴィクトリア時代の他のカメオに比べ、かなり大きさがあります。アンティークジュエリー全般に言えることですが、王族や貴族などの富裕層が身に着けていた大振りの作品が一つあるとすると、それと似たがデザインの小振りの作品が100個あったと考えられます。そうした小振りの作品は当時のファッションリーダーであったヴィクトリア女王などが付けたものを模したであり、中産階級向けに作られた物でした。もちろん、中産階級といってもイギリスの中産階級はいわゆる労働者階級とは異なり、家にメイドなどが複数いる世帯のことを指します。

現在、そうした100個に一つあった大振りのカメオを始めとするジュエリーは海外に離散してしまい、マーケットに表れることが少なくなりました。骨董市やオークション等で見かけるものも、ほとんどが中産階級向けのものとなっています。

先のような現状の中、久しぶりに手に入ったまさに逸品と呼べるカメオです。大きさだけでなく彫りも素晴らしく写実的です。「生きているよう」と良く例えられる表現ですが、その言葉が適格と呼べるほどに細やかさと柔らかさを兼ねた彫りになっています。また、頭部に花輪を飾り、花の女神フローラを題材としていますが、女神というよりももっと、人間味が溢れた姿に感じられます。通常の19世紀のカメオの題材となっている女神はどこか人というよりも神、人間の温もりを超越した大理石の彫像のような美しさがあります。それに対し、このカメオからは温かみが伝わって来るようです。

斜め後ろを振り返るように立つ女性の左手には一凛の花が握られています。その花と髪に飾られている花はオレンジの色が残された三層彫りの特徴が生かされています。

全体的に彫りは深く遠くからも輪郭や表情、髪飾りなどがはっきりと浮かび上がります。分厚いコロニアル貝を使い、白地とオレンジの層の境目をはっきりとさせています。背景のオレンジの色合いは夕焼けの光に満たされた空気のようであり、向かって右上から左にかけて色が次第に淡くなるグラデーションになっています。貝の色合いにも温かみが感じられるのでしょう。

背景の上部に斜めに入った線が何本か連続して見えますが、これは貝の層が経年によって表に出てきたものであり多くのカメオで普通に見られるものです。実用には問題はなく、今後も年に一回ほどオイルを塗るなどメンテナンスをしていけば、問題はないでしょう。

フレームはハイカラットゴールドでフルール・ド・リスのような形をした模様が上下左右に飾られています。針が長いのは現在のようなストッパーが無かった時代、落下防止のため先端を再度、生地に刺していたためです。箱にはこの長く出た針の先端も収められるようになっています。尚、ご希望がございましたら当店で針を短くする加工はさせていただきます。

オリジナルボックスの内蓋はシルクでできており、そこには宝飾店のマークが入れられています。

PAYNE＆SONS　JEWELLEES ＆　GOLDSMITHS　TO　THE　QUEEN

とあり、バースにあった店の住所と王室御用達の証である王冠がマークとして押されています。

箱付きで残っているアンティークジュエリーは現在では本当に少なく、それこそ百個に一つもない程です。イギリスのマーケットでは古い箱が一つ20～40ポンド程で販売されていることもあります。

一級品のカメオがオリジナルボックスに収まり現存していた大変希少な逸品です。風になびくような若き女性は100年以上時を経てもその美しさをカメオの中に留めています。